大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国文学研究資料館

「国文研 千年の旅」読売新聞多摩版 連載より

2024/3/13

物類品隲

(ぶつるいひんしつ)

1000xie.jpg 「物類品隲」巻六にあるサトウキビを搾る図。中国の産業技術書「天工開物」の図をなぞっているが、原図よりかなり精密で、源内の洋画技法による工夫が見られる

 「書を読む計を学問と思ひ、紙上の空論を()って格物窮理と思ふより間違(まちがい)も出来るなり(ひたすら本を読むことを学問と勘違いした儒者や医学者らは、役立たない昔の理論を唱え、心理を知り尽くしたと考え込み、多くの間違いをもたらした)」――。「日本のダ・ビンチ」とも呼ばれる、平賀源内が残した一言である。
 そうした言葉を放った源内を、日本思想史家・源了圓が日本の啓蒙思想の代表人物として(たた)えた理由は、まさに彼の従来の学問に対する反骨精神にある(「徳川思想小史」)。そしてその反骨精神をよく反映している薬学書として、「物類品隲」がある。
 宝暦7年(1757年)から宝暦12年にかけて、江戸では5回にわたり薬品会が開かれた。宝暦13年の秋、源内は薬品会への出品の解説書の形式で、「物類品隲」と名付けて上梓(じょうし)した。
 この第1~4巻は当時の薬学書の権威である明・李時珍の「本草綱目(ほんぞうこうもく)」の分類体系を模して出品を並び直したものだ。第5巻は360種の精選出品のうち、さらに36種の珍品を選出して図絵にしたものである。第6巻では、「国益」の増進に役立つと思われる砂糖、朝鮮人参(にんじん)の製造法、栽培法などが載せられている。
 表面上、本書の分類体系は「本草綱目」に準じているが、細かく分析してみれば両者の間にかなりの相違が存在している。源内の独自の発想や「本草綱目」という古典の権威に挑む意図が垣間見られる。
 例えば、「本草綱目」の分類原理によると「草部」に載せるはずだった「薔薇露」(バラから抽出する液体)は、唯一の項目として「水部」に載せられている。源内はその項目において、「李東壁曰ク。番国(外国)ニ薔薇露有リ、甚ダ芳香、云フ是レ花上ノ露水ト、未ダ是非ヲ知ラズト(いまだにその説が正しいかどうかはわからない)」、「李氏モ其ノ法ヲ知ラザルガ故ニカク云ルト見タリ(結局、李時珍は薔薇露の実際の製法を知らないからこそ『本草綱目』に薔薇露について記載したのだ)」などと、李時珍の説を引用した一方で、自らの知識の豊富さをアピールしている。
 また、説明において「本草綱目」が中国の典籍を使用するのに対して、源内は日本典籍、文学作品、風土誌などを考証材料としている。このような記述傾向から、「本草綱目」や中国伝統文化からの自立を図る源内の姿勢がうかがえよう。

(プロジェクト研究員 謝蘇杭)


読売新聞多摩版2024年1月24日掲載記事より

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