館長 渡部 泰明
ようこそ、国文学研究資料館へ。
当館は1972 年に創設され、今年で設立51 周年を迎えます。半世紀の間、日本文学および関連領域の研究に寄与してきて、さらに1年目を迎えたことになります。国文学研究資料館が、準備期間を経て閲覧サービスを開始したのは、1977年の7月でした。個人的な記憶を掘り起こせば、その翌年大学の国文学科に進学した私は、先輩に促されるままに、当時戸越(東京都品川区)の地にあった当館を訪れ、手に入れるのに四苦八苦していた文献や資料を苦もなく閲覧することができ、しかも複写までしてもらえることに驚いたものでした。爾来四十余年、国文学研究資料館の提供する資料の範囲は飛躍的に拡大し、サービスの質も格段に向上しました。各種データベースの充実ぶりにも目を瞠るものがあります。新型コロナウィルスが私たちの生活を脅かし、調査や資料収集に大きな制限が加わった現今の状況の中で、これら各種のデータベースがどれほど有効性を発揮したかは、よくご存じのことと思います。
こうしたデータベースの一つ「新日本古典籍総合データベース」は、当館が中心となって2014 年度より取り組んでいる「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」(歴史的典籍NW 事業)によって生み出され、今年3月、「国書データベース」となって生まれ変わりました。歴史的典籍NW 事業で、国内外の研究機関と連携しつつ行っている画像データの作成も、目標の30万点到達が目前となりました。さらに、本事業の後継計画である「データ駆動による課題解決型人文学の創成」事業も、文部科学省のロードマップ2020に採択されています。また、去年館内に古典籍データ駆動研究センターを設置し、万端の準備を整えながら、蓄積してきた膨大なデータを、どう活用していったらよいのか、その道筋を示していきたいと思っています。そのために、理系をも含めた異分野とも協力し合って国際展開する事業を進めています。国内・国外を問わぬ研究者どうしのネットワークを形成し共同研究を進めていくのも、私たちの大きな仕事とです。
もとよりどのような情報であれ、使うのは人間であり、それを咀嚼し、自らの知性の糧とするのも私たちです。宝の持ち腐れでは意味はありません。人文学に何が出来るのか、今強く問われています。だからこそ、私たちの発言や行動が必要になっている、と思っています。情報の海に溺れないためにはどうしたらよいか、多様な価値観の中でどこを向いて進んだらよいのか、そもそもそれを教えてくれるのが古典だからです。いまだ知られていない古い資料・文献を発掘し、誰でも読み解けるように提供したうえで現代に甦らせ、その価値を共有しうるよう示していく。古典籍に関わる者に課せられたその使命を、私たちは先頭を切って果たしていきたいと願っています。