画本柳樽
(えほんやなぎだる)
五七五の十七音からなる川柳は、現代人にとってもなじみ深い文芸の一つといえる。江戸時代に詠まれた川柳のなかでも、特に優れた句を選び編まれた『誹風柳多留』という書がある。この『誹風柳多留』に掲載された句とともに、新たに句意を説明する絵を配したのが『画本柳樽』である。書型は中本と呼ばれる今のB6ほどの大きさ。天保11年(1840年)に初編が刊行されて以降、2編3編と編を重ねていく。編者は6編までが岳亭丘山。7編以降は葛飾戴斗である。
国文学研究資料館が所蔵する『画本柳樽』は、表紙や見返しに「初編」とあるものの、序文には5編、本文には2編のものが流用されている。本書は5編が刊行されて以降、5編の序文と2編の本文に、本来「二編」とあった部分を「初編」と改めた表紙と見返しを付すことで、あたかも初編であるかのように見せかけた書籍なのである。奥付を有するが、それとて本来の初編の奥付ではない。全く異なる別の書籍の奥付が流用されているのである。なぜこれほどまでに複雑な構成となっているか、その理由は残念ながらわかっていない。
さて、内容をみていこう。掲載した図には、「ひとりもの」すなわち独身者を詠んだ川柳がみられる。「香のものへしをつてくふひとりもの」。面倒だからと沢庵漬けを切らずに折って食べる「ひとりもの」。「寝どころをへしをつておくひとりもの」。こちらは億劫がって布団を片付けない「ひとりもの」。それぞれの様子を描いた絵も愛らしくてよい。いずれも「ひとりもの」あるあるとして現代でも十分に通用するだろう。
2017年、故高林秋之介氏旧蔵の川柳関係資料171点が国文学研究資料館に寄贈された。そのなかには『画本柳樽』のもととなった『誹風柳多留』もある。機会があればぜひ原本を手に取ってもらいたいと思う。
(特任助教 松永瑠成)
読売新聞多摩版2022年10月5日掲載記事より