大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国文学研究資料館

「国文研 千年の旅」読売新聞多摩版 連載より

2022/12/ 9

画本柳樽

(えほんやなぎだる)

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 五七五の十七音からなる川柳は、現代人にとってもなじみ深い文芸の一つといえる。江戸時代に詠まれた川柳のなかでも、特に優れた句を選び編まれた『誹風柳多留(はいふうやなぎだる)』という書がある。この『誹風柳多留』に掲載された句とともに、新たに句意を説明する絵を配したのが『画本柳樽(えほんやなぎだる)』である。書型は中本(ちゅうぼん)と呼ばれる今のB6ほどの大きさ。天保11年(1840年)に初編が刊行されて以降、2編3編と編を重ねていく。編者は6編までが岳亭(がくてい)丘山(きゅうざん)。7編以降は葛飾戴斗(かつしかたいと)である。
 国文学研究資料館が所蔵する『画本柳樽』は、表紙や見返しに「初編」とあるものの、序文には5編、本文には2編のものが流用されている。本書は5編が刊行されて以降、5編の序文と2編の本文に、本来「二編」とあった部分を「初編」と改めた表紙と見返しを付すことで、あたかも初編であるかのように見せかけた書籍なのである。奥付を有するが、それとて本来の初編の奥付ではない。全く異なる別の書籍の奥付が流用されているのである。なぜこれほどまでに複雑な構成となっているか、その理由は残念ながらわかっていない。
 さて、内容をみていこう。掲載した図には、「ひとりもの」すなわち独身者を詠んだ川柳がみられる。「(かう)のものへしをつてくふひとりもの」。面倒だからと沢庵(たくあん)漬けを切らずに折って食べる「ひとりもの」。「()どころをへしをつておくひとりもの」。こちらは億劫(おっくう)がって布団を片付けない「ひとりもの」。それぞれの様子を描いた絵も愛らしくてよい。いずれも「ひとりもの」あるあるとして現代でも十分に通用するだろう。
 2017年、故高林秋之介氏旧蔵の川柳関係資料171点が国文学研究資料館に寄贈された。そのなかには『画本柳樽』のもととなった『誹風柳多留』もある。機会があればぜひ原本を手に取ってもらいたいと思う。

(特任助教 松永瑠成)

読売新聞多摩版2022年10月5日掲載記事より

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