大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国文学研究資料館

2025/6/ 9

源氏物語の検索の前に

genjihyosyaku_20250423-0.jpg 『校正譯注源氏物語評釋』
(国文学研究資料館所蔵初雁文庫本。国書データベース使用。画像著作権情報はPDM1.0。2025年4月23日参照)

令和7年4月23日現在、国文学研究資料館の国文学・アーカイブズ学論文データベース(以下DBと略します)の検索ボックスに「源氏物語」と入力して検索すると、総件数約64万5千件の内に約2万3千件検出しました。最終更新日は同年4月7日ですから、いちおうこの件数が源氏物語の論文の総量の概数になるかと思います。ここでは、源氏物語を探究・研究している方が快適に研究を進められるよう、DBの使い方について、紙幅の許すかぎりですが、いくつかの事柄を教え、以て古典への誘いとします。

まず、DBを使用する以前のことで、これがもっとも肝心なことですが、テキストは五十四帖の本文がそろっていれば現代語訳でもかまいません、源氏物語の本文をよく読みましょう。そして、自分がもっとも感動したことを大切にし、いったんそれ以外のことは捨象しましょう。これから源氏物語を対象にして卒業論文を書こうとする学生・生徒諸君は特に。学生生活から踏ん切りを付けて実社会に出るため、源氏物語に魅せられた自分を出し切りましょう。また、源氏物語にとりつかれてしまった方、あるいは、源氏物語などを読んで古文を教える教職についた先生にも、源氏物語から受けた感動を忘れないよう願います。忘れないで大事にするためには、繰り返し読み、感動の対象の本質をよく調べて考え、発見の感動に深めることです。論文ではその知的探究活動を、他人がわかるように文章にまとめます。DBは、その他人を知る必要が生じたのちに、ご利用ください。

次に、DBを使用する前提として、DBの特長は雑多な論文のとりあえずの目録情報であることを踏まえましょう。論文の目録情報は、国文学研究資料館が原本を所蔵する単行本や雑誌紀要等から調査・収集しています。学術団体の専門誌、各大学の学会誌、教育研究機関の紀要、共同プロジェクトの研究報告、院生の同人誌、詩歌等の結社、伝統芸能の諸団体等が発行する機関誌や観劇パンフなどのほか、高名な学者の算賀や退職を記念した論文集、一般向けの講座物、専門出版社の企画物論文集などを調査して目録情報を収集しますが、学術論文や専門的な文章だけではありません。図書等所載の古典籍の影印・翻刻、近代の作家の原稿・書簡なども拾い、余さず目録にします。この結果、DBは情報の典拠が雑多で目録の件数がそのぶん多くなっています。「ふつう千件以上になったら見ない」とDB開発時、検索結果の見せ方の検討中に教わり、確かに情報処理の教官の言った通りだと見ましたが、源氏物語は専門の学会誌が健在で、毎年論文目録が載ります。DBの検索条件に自分なりの発想法の整理を加えて検索し、検索結果を「むらさき」の目録と併用することにより、目録情報が整理できます。なお、国文学年鑑は凡例にしたがって特集・巻別・作中人物別・写本別など、研究対象の特徴に応じて分類し、「*」で示しました。DBはそこまで追わせられませんし、大量の件数がヒットしますから、教員が専門的な観点からアステリスクにあたる事柄を教授し、結果が千件以上になる無駄な検索、また、論文が論文を大量にためこむ事態は、避けさせましょう。

なお、図版の当館蔵初雁文庫の源氏物語評釈についてですが、『批評集成源氏物語』第二巻近世後期篇に、「惣論」を若林薫と翻刻しました。大学院の自主ゼミの思い出でもあり、国文研から紙焼き写真を取り寄せるなどしてくださった当時の先生方、先輩や後輩には感謝しております。評釈は花の宴の巻で終わったので、桐壺の巻からの大学の利用には批判的に評釈も検討した新潮日本古典集成に合わせて参照させましょう。

(江戸英雄)


※今回ご紹介した『校正譯注源氏物語評釋』には以下のQRコードからアクセスできます。

文部科学教育通信2025年5月26日掲載記事より

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