◆動画を公開します。プログラムのYoutubeアイコンをクリックして各動画にお進みください。
◆皆様よりお寄せいただいたアイデア は以下よりご覧いただけます。誠にありがとうございました。
リアルで十二単を着て建物の中を歩きながら体験するとか(ちょっと大変ですかね)、
電子空間に内裏を作って、VRゴーグルつけて散策しながら、ある場所に到達すると、物語が進むとか(ノベルゲーム)。
1人称で平安時代を体験しながら、物語を楽しめるとまた違った読書体験になりそうです。
(あおくも 様)
小説とコラボ作曲発信しているYOASOBIに、古典文学作品をもとにした歌を作ってもらいたいです。
(匿名希望 様)
現代の画家の方から同じ古典を基に表現の違いを比較する 現代源氏物語絵巻など
(匿名希望 様)
ひとつの古典籍をテーマ・題材にして、ジャンルの異なる様々なアーティストやクリエーターがそれぞれに作品を作って持ち寄る展示があれば、ぜひ足を運んでみたいです。
(匿名希望 様)
本日は多様な講師の先生のお話を伺え参考になりました。
高校で古典を担当し、できるだけ多くの作品や画像資料を見て、作品の世界に引き込もうとしています。その時「本物」の力は非常に有力だと日々感じています。そこで、提案です。
仮称 「未来の担い手を育てる」プロジェクト
今年度から、東京都立高校では生徒一人1台のタブレット、PCを持ち、授業、放課後、授業準備、課題で利用することになりました。
様々なウエブを通しての学習素材、情報源が必要となるのですが、良質な情報源が限られていると感じます。そこで、
1 古典、日本史、書道、美術、探求、総合などで利用できる(高校生が分かる表現での)情報源として 国文研の古典籍、画像を利用できないでしょうか。
例
①授業で国文研の画像にアクセスし、自分のレポートなどに、その画像を引用するなどの使い方
②教科書には載らない古典の作品の「奈良絵」や「絵巻」にストーリーをつける。
作品として発信する。(コンテストなどもありかも。)
2 表現、探求の授業などで、「国文研」を取材し、ビデオを作成。あまり古典を知らない(残念ながら)10代の視点でみた古典籍や古典研究とはどのようなものだろう?
これを高校生と共同で発信する。
3「歌合」を国文研の先生が高校生に指導する。多くの高校生は百人一首を知っており、暗記しているが、その多くが「歌合」で詠まれていたことは知らないことが多い。
以前国文研で企画された、ジャズと和歌朗詠のイベントは中止になってしまって、残念でした。
和歌の朗誦自体、知らない教員もいるので、文化の一面として興味を持つ若い人にはその機会を提供できたらと思います。
(勇 晴美 様)
古典世界の模様、色彩ないし物語などの要素が、服装、アクセサリーなどのファッションに取り入れられれば、と思います。
(匿名希望 様)
「本歌取り」創作。たとえば俵万智さんは和歌を57577の韻律のまま現代短歌にしています。和歌であれば、一日一首、「この歌を現代短歌にしてみましょう」といった企画を立て作品を募集し、(全部でなくとも)研究者や作家の方が選をして公開・刊行するというのはどうでしょうか。同じ一首の和歌から、詩・俳句・短歌と部門ごとに分けても面白いかもしれません。
(一色海岸 様)
今回、陶芸家や画家、アニメーション作家、翻訳家、小説家の方など、多くの現代におけるアーティストの方とコラボレーションされていることを知りました。
今後も漫画家、書道家、絵本作家、ゲームクリエイターの方など、多方面のアーティストの方とコラボレーションしながら、古典がどのように現代作品の中に生きているのかを多くの方に知っていただける機会があるといいと思います。
また、教育現場の先生方(特に幼稚園、小学校の先生方)が、絵本や学習まんがをどのように取り入れていらっしゃるのかや、逆にどういった作品があれば便利だと思われるのかといった意見を聞き取り、絵本作家さんや出版社の方につなげることも有効なのかなと思います。
さらに、漫画『ちはやふる』は完結してしまいますが、せっかく『ちはやふる』のおかげで脚光を浴びることになった『百人一首』や「競技かるた」というスポーツが、一時のブームで終わらないように、選手の方(名人、クイーンの方)とコラボレーションしたり、「競技かるた」を始めた小学生、中学生に『百人一首』の内容や歴史を伝えるような企画などがあればよいのかなと思います。
(匿名希望 様)
京都で中高教員をしているものです。京都で古典を学んでいても、生徒たちは古典の世界を自分たちとは遠いものと思っているようにも感じます。視覚以外にも、古典の学びを身体感覚として残すために、古典に描かれた世界の、その場に聞こえた音、香り、味、触覚などを生徒たちに体験させられないだろうかと考えています。昔の人が歩いた道や空間を、古典の言葉とともに、もっと自分達の足で歩いてみることも必要かもしれません。
(匿名希望 様)
新しい利活用法と言ってよいものか微妙ですが、古典文学作品の朗読を音声配信しています。渡部先生のコメントにあったような「古典を生きる」に近いことかもしれません。江戸時代の読書は黙読ではなく音読が一般的だったと聞きます。藩校等での授業にも素読が取り入れられていました。江戸時代の読書体験と昨今の音声配信の盛況っぷりは相性が良いのではないかと思います。
原文の響きを楽しむことを目的に朗読していますが、内容が分からないと楽しくないという感想も容易に想定できるので、朗読の後に簡単な解釈をつけています。
最近は『東海道中膝栗毛』を読んでいます。会話が多い作品になると、解釈が無くても通じる部分が増え、楽しんでくれる方が多いように感じます。まだまだ過疎枠なので、多いと言ってもたかが知れていますが……。
(赤ぼっち 様)
今回は「古典→アート」という流れのお話で、大変興味深くお聞きしました。ぜひ「アート→古典」という実践についてお知らせしたく思います。
長野県木曽町にあります木曽義仲顕彰施設「義仲館」のリニューアル事業において「アートを触媒に、木曽義仲に興味をもってもらう」というプロデユースを行いました。木曽義仲は木曽町ゆかりの歴史上の人物でありますが、平家物語のキャラクターとして知られています。残念ながら木曽義仲には歴史的遺物がほとんどなく、木曽町においては義仲が育った空間こそが遺物と言える状況です。
そのため、「義仲館」では従来型の「歴史にまつわるレプリカ展示」ではなく、説明文もそぎ落とし「現代アートの作品を通じて義仲と云う人物について想いをめぐらせていただくため、複数の作家に作品を依頼して展示」しました。絵画・彫刻・動画など油画からタッチパネルまでさまざまなタイプの作品をアーティストに依頼し、興味をもった鑑賞者が自主的に調べることができるよう、平家物語や源平盛衰記などの古典、義仲について様々な人物(芥川龍之介・手塚治虫など)が語った書籍を用意し、ライブラリースペースを設けました。当初、展示作品の鑑賞を通して「義仲に興味をもって館の外へ周遊してほしい」と考えていたのですが、嬉しい誤算が多くの人によるライブラリースペースの利用でした。不思議と、アート作品を見終わった鑑賞者は本を手に取り、自分の興味関心にそって読書をはじめたのです。開館から一年以上たちましたが、こうした流れは日々みられる風景となっています。もちろん平家物語を手に取る方もとても多いです。
ないじぇるの取り組みで作成されたアート作品の展示と、あわせて元となった古典、解説書籍を置いたり古典に関する知識を深めるサイトを設けることで、歴史や古典に興味が薄い方々が自主的に動いていく仕組みは作れるのかもしれないと強く感じています。対象とする鑑賞者にあわせた、会場の選定が最も重要と考えますが、各地で行われている芸術祭に地域に合わせた古典作品を選んで出展するなどはいかがでしょうか。有名ではない作品でも地域にゆかりがあれば一気に親近感がわくと思います。古典の世界が資料館から飛び出し、どんどん広がっていくのを期待しております。
また、会議中にありました小山先生の「研究者の推しプレゼン大会」はぜひやっていただきたいです。研究者の皆さんの「これは面白い!」が伝わることが、古典に興味が薄い人のこころを動かす共感につながるはずです。古典や歴史は難しそう…と敬遠されていることが何よりもったいないと思っています。
(西川かおり 様)
あまり知名度が高くない古典の作品を多くの人に知ってもらうために、古典の作品の内容を文字だけではなく漫画やアニメのように視覚的に紹介するというものです。具体的には、たとえば話の内容や人物の位置などを、一枚の絵画の画面を分割してストーリー順に漫画のように表すことや、『信貴山縁起絵巻』の飛倉の巻のような動きが有る作品を、現代で漫画化することで絵巻の特色を見る人に理解してもらい古典とオマージュ作品を比較してもらうことなどです。東京都美術館の源氏物語の展示から着想を得ました。
(匿名希望 様)
古典作品と「音楽」はどうでしょうか。古典の物語の世界観を音楽にできれば面白いかと。KANA-BOONの「盛者必衰の理お断り」のように(あれは楽しいだけの曲ですが)すでに楽曲の一部に古典を踏まえたもの、言葉遣いを古典にしたもの等、アーティストの個性を出すために古文は使われているように思います。また、ヨルシカの「又三郎」やYOASOBIのように最近の曲には文学作品をもとに作られた例などもあります。古典作品から歌を曲を作る、逆に歌や曲の世界を表現するツールとして古典作品のイメージを借りるなどといったことは、以上のような理由から、世間に受け入れられやすい方向ではないかと感じました。
(匿名希望 様)
●枕草子の映画化のお話をお聞きして、そこでのアニメーションや素材をもとにしたVR教材(小中高の授業で使用)を作成して欲しいなと思いました。古典世界をよりリアルに感じられるVR教材ができれば、児童生徒に古典世界への興味関心を持たせることができるとともに、作品に対する理解の深まりや新たな問題の発見、現代社会との比較といったことへも繋がっていくように思います。
●また、古典作品をもとにした様々なゲームを作るのも面白いと思いました。ゲームにはすごろくやボードゲームなどのアナログなものからオンラインゲームまで様々な媒体があるため、現代的における古典の活用という点で面白いアイデアがでるように思います。"
(武久 康高 様)
音楽活動をしている教え子が『往生要集』などを読んで曲を作ったと教えてくれました。『枕草紙』のネタも入っていたりして、古典好きには楽しい曲です(※)。今はボカロPとしても頑張っていますが、top100に入るのも大変難しいほど盛況だそうです。裾野を広げるという意味では、古典を題材にした曲のオーディションを開催するなどしても面白いかなと思いました。 ※mayu(rillrail)「ドキッ☆ズキッ☆サトウキビっ☆」(https://soundcloud.com/rillrail-fukuoka/fsyfr7krbizi?utm_source=clipboard&utm_medium=text&utm_campaign=social_sharing)。
(古典教員 様)
ないじぇる[動詞]
古典籍に新たな光をあて、世の中にひらき、皆で手を携え創造的な活動へと向かうこと。(ミライの国語辞典より)
漆芸、油絵、アニメーション、翻訳──アート・外国語とコテンセキとの一期一会を大公開!
古典をミライへつなぐため、あなたならどんな魔法をかけますか?
「古典文学」──長い年月を経ても、価値を持ったゆるぎないもの。
この言葉を耳にしただけで、なんだか敬して遠ざけたくなるような気になりませんか?
もちろん、『源氏物語』『古今和歌集』などは「古典」を支える屋台骨。でも、それらは一部の特権階級の独占物ではないはず。一度そうした大古典としてのヨロイを脱ぎ捨て、もう少し敷居を低く(バリアフリー化)できないものでしょうか。
一方、その大古典の頂(いただき)の裾野には、「小古典」が星の数ほど広がっています。いまの目から見るとかえって新鮮な、そうした普段着のような「古典」にはどこにいけば出会えるのでしょう。
この10年ほどの間に急速に拡大した膨大な古典のデジタル画像を前に、研究者もいわばコンシェルジュのような役割が求められています。
そんな中、他分野の人たちとも手を携えて、ともすれば力みがちな「古典」をめぐるあれこれに、少しだけ肩の力を抜いてアプローチし、それを新たな発見の呼び水とする様々な実践が行われています。
「ないじぇる芸術共創ラボ」(略称:ないじぇる)は、このような思いのもと、国文学研究資料館(NIJL)で立ち上げられた斬新なプログラムです。このラボでは、さまざまな分野で活躍するクリエーターたちと研究者が、ともに古典籍の魅力を探求してきました。その過程で培った経験と成果をここで思いっきり開放し、参加者のみなさんと一緒に古典のミライをつくるヒントをさがす、それがこのオンライン会議です!
登壇者
プレゼンター

小山 順子
(京都女子大学教授)
京都大学大学院博士課程修了。博士(文学)。専門は新古今時代を中心とした古典和歌。天理大学講師・准教授、国文学研究資料館准教授を経て現職。著書『藤原良経』(笠間書院、2011年)、『和歌のアルバム 藤原俊成 詠む・編む・変える』(平凡社、2017年)。
和歌研究者の視点から、AIR・TIRとともに和歌の解釈を考え、美術・工芸品の意匠の背後に潜む文学的思考を読み解くワークショップを重ね、ないじぇる芸術共創ラボ設立当初から、クリエーターたちに伴走してきたお一人です。
研究者とクリエーターたちとの交流によって生まれた数々のひらめきについて綴られたないじぇるリポートを、是非ご覧ください。

(美術家/漆芸、アーティスト・イン・レジデンス(AIR))
2014年京都市立芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。博士号(美術)取得。2015年京都市芸術新人賞受賞。
日本文化における「飾り」や「遊び」といった趣向に関心があり、漆の装飾技法や意匠を糸口とした作品制作や調査を行う。
最近の展示に、「根の力」(大阪日本民芸館、2021年)、「札幌国際芸術祭2020特別編」(北海道立近代美術館想定、2020年)、「DISPLAY」(MITSUKOSHI
CONTEMPORARY GALLERY、2020年)などがある。
【ないじぇるでの活動】
日本文化における「飾り」や「遊び」といった遊戯的思考についてより深く考えたい、この思いからないじぇるに参加した染谷氏は、古典と漆芸との共通点として、「縮景」と「写し」という、二つのキーワードにたどり着きました。持ち運べない景色をコラージュし、縮めることで、パーソナルな品物にして楽しむ趣向を古典文学から見出し、景色を飾る「器」として新たな作品を展開しています。

(画家、アーティスト・イン・レジデンス(AIR))
2021年京都市立芸術大学大学院美術研究科博士(後期)課程美術専攻(絵画)修了。2015年第7回絹谷幸二賞、2015年京展・京都市美術館賞、2016年VOCA奨励賞、2018年京都市芸術新人賞、2021年京都府文化賞奨励賞、2022年咲くやこの花賞などを受賞。
黒や赤のベルベットを支持体に、油彩やアクリルのほかにグリッターやスパンコール、金属粉なども駆使し、「自身の負の記憶と人間の闇を混淆した美」を描く。
2017年五島記念文化賞新人賞を受賞し、2017年秋〜2018年秋の1年間、五島記念文化財団助成によりフランス・パリへ研修滞在。現在は帰国し、関西を拠点に制作活動を行なっている。
【ないじぇるでの活動】
絵を描く前に、自身の記憶、民話や神話、さらには現代社会の問題を反映させた独自の物語を創り、それらを起点として作品を制作している谷原氏は、古典文学に描かれた多種多様な物語に出会い、古典を自身の世界観で再解釈・再構築することをとおして、現代の我々の心にも通じる、闇と光が共存する不思議な表現世界を創り上げました。

(アニメーション映画監督・脚本家、アーティスト・イン・レジデンス(AIR))
アニメーション映画監督。日本大学芸術学部特任教授・上席研究員。代表作『名犬ラッシー』(96)、『BLACK LAGOON』(06)、長編『アリーテ姫』(01)、『マイマイ新子と千年の魔法』(09)、『この世界の片隅に』(16)、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(19)など多数。現在、疫病の中に生きる千年前の人々を描く次回作を制作中。
【ないじぇるでの活動】
作品制作にあたり、歴史的な背景を徹底的に調べて日常生活の機微にこだわる片渕氏は、『枕草子』を題材にした新作アニメ映画に取り組んでいます。できるだけその時代を忠実に再現することは、当時の人々の想いと向き合い、今の時代を再認識することにも繋がると語る片渕氏は、ないじぇるでさまざまな分野の研究者と議論を重ね、清少納言が生きた、平安という時代に迫ろうとしています。

(翻訳家、トランスレーター・イン・レジデンス(TIR))
北京大学卒業後、中国社会科学院哲学研究所に入所。25歳で三重大学に留学し、後に商社勤務などを経て執筆活動を開始。2000年、日本での生活体験を綴った『にっぽん虫の眼紀行』(法藏館・文藝春秋〈文春文庫〉)で第28回神戸っ子ブルーメール文学賞を受賞。中国語の著作も多く、日中双方の文壇で活躍している。中国語翻訳書には『歎異抄』や『出家とその弟子』など多数、2017年神戸市文化奨励賞受賞。現在、神戸国際大学教授。専門は日本社会文化論、現代中国文学とメディア。
【ないじぇるでの活動】
SDGsが盛んに議論されている今、毛氏は江戸時代の先進性に注目しています。ないじぇるで勝海舟の父、勝小吉の日記『夢酔独言』を中国語に翻訳するなか、研究者とともにこの本が書かれ、読み継がれてきたそのエネルギー源を掘り下げました。幕末頽唐期を生き抜いた小吉の豊かな人間性や強い精神性、そして当時の社会風土を読者に提示することをとおして、毛氏は日本の近代化という大きな問題を再考する契機を作り出そうとしています。
コメンテーター

山中 悠希
(東洋大学准教授)
専門は平安文学、『枕草子』本文の研究。著書・論文等に『堺本枕草子の研究』(武蔵野書院、
2016)、「『枕草子』における女房としての「身」と「心」―「村上の先帝の御時に」の段の検討を通して―」(寺田澄江・陣野英則・木村朗子編『身と心の位相 源氏物語を起点として』青簡舎、
2021)など多数。
ないじぇるアートトーク「『枕草子』に書かれた以上に清少納言や中宮定子を知りたいあなたに」

齋藤 真麻理
(国文学研究資料館教授)
専門は中世日本文学。とくに室町時代から江戸時代前期の絵巻や絵本に関心を持ち、室町物語(御伽草子)などの本文と挿絵を読み解き、その文学圏や時代性を研究している。著書に『異類の歌合室町の機智と学芸』(吉川弘文館、2014年)、『妖怪たちの秘密基地 つくもがみの時空』(平凡社ブックレット、2022年)など。
コラム
「古典のミライにアイデアを!
──ないじぇるクリエイティブ会議開催に寄せて」
日本の古典文学-それがいまの世の中でどのようなイメージをもたれているのか、えてして関わっている当事者には一番見えづらい。しかしさすがに、よく読まれているとか、盛況だといった声はどう耳をこらしても聞こえてこない。新刊書店の日本古典の棚からは息づかいや勢いが感じられず、なんとなくシャッター商店街然とくたびれているように映ってしまうし、配架してくれるのならまだしも、どんどん縮小、消滅の危機にある。昭和の古典評論華やかなりし時代とも状況が全く違う。
古典、クラシック、スタンダード。ある意味、不動の地位にあり普遍的な価値をもつと信じられている作品には、常連のファンは多い。しかし、一見様お断りとお高くとまっている場合ではないし、「大古典」そのものにも新陳代謝は必要だろう。海外文学に目を向ければ、「新訳」という方法で息を吹き返すどころか、新しい命を吹き込まれている作品も数多くある。また、新旧の多様な作品が積極的に紹介されたことで、新しいファンを開拓した韓国文学などの例もある。日本古典はオワコンだなどといって自虐的なポーズをとる前に、やることはまだたくさんあるはず。
そうした危機意識とともに、古典文学を元気づけようとするさまざまな試みがなされている。ただ、一応「日本語」で書かれているがゆえに、かえって近そうで遠いもの、分かりそうで分からないもの、というなんとも微妙な立ち位置にありはしないか。まずは原点に立ち返って、人々に古典に目を向け、興味をもってもらうきっかけづくりからはじめる必要があるだろう。
研究者が日本の古典を取り巻く話をすると、いかんせんストイックになりがちである。 総じて研究者はそういう体質をもっているものだが、それがかえって自分たちの身動きをとりにくくしている。雑誌やネット上のライターのように、もっと自由に、軽やかに対象を愛でながら魅力を伝える方法やツールを編み出せないものだろうか。研究者個人と話すと、古典が好きになったきっかけはみんなささいな、それぞれ等身大のものなのに。
国文学研究資料館(NIJL)は2017年に「ないじぇる芸術共創ラボ」(略称:ないじぇる)なるプログラムをたちあげ、さまざまな分野で活躍するクリエーター、翻訳家たちと研究者が、ワークショップをとおしてともに古典籍の魅力を探求してきた。今回は特に、この10年ほどの間に急速に拡大した膨大な古典のデジタル画像の活用法をケーススタディとして提示したい。とはいえ、いきなりナマに近いものをそのまま差し出されても、多くの人は巨大な迷路の中に迷ってしまうだろう。そこで、これからの研究者はいわばコンシェルジュのような役割が求められる。そして、そこには五等星、六等星のような、人目につきにくいけどキラリと光る「小古典」も点在している。
本会議は、「ないじぇる」の第2期(2021年度~)の過程で培った経験と成果を余すところなく開放し、参加者のみなさんと一緒に古典のミライをつくるヒントをさがすために開催するものである。
国文学研究資料館准教授 木越俊介
国文学研究資料館は、東京都立川市にある国立研究機関。略して「国文研(こくぶんけん)」、またの名をNIJL。
半世紀にわたり、明治時代よりも前に日本で「作られた本」を調査、収集しているところです。「作られた本」と書いたのは、印刷されたものだけではなく、人の手によって写されたものも多くあるからです。国文研ではこれらを「古典籍」と呼んでいます。
ひとくちに古典籍と言ってもその内容は様々です。
『源氏物語』『百人一首』といったいわゆる“文学”だけではなく、旅行、医学、料理、デザインなど、さまざまなものがあります。ひとつひとつの「本」に、文字や絵で、わたしたちの祖先の知恵や教訓が、あるいは普遍的な欲求や不安、哀しみ、歓び、生と死がつづられています。また、それぞれの「本」が、大切に受け継がれ、もしくは波乱万丈な道のりを経て、国文研までやってきた「物語」も背負っているのです。
国文研は、国内外の各地に存在する古典籍を広く求め、調査をし、1点ずつ全文撮影を行った上で、その調査結果やデータを公開すること、そしてその成果を活用した共同研究を行うことをミッションとしています。
国文研がさまざまな機関の協力のもとで構築する「新日本古典籍総合データベース」は、国内外に所蔵される古典籍の情報や、その高精細画像を検索・閲覧できる無料のポータルサイトです。Web
環境さえあれば、研究者のみならず、どなたでも、どこからでもアクセスすることができます。
ないじぇる芸術共創ラボは、正式名称を「ないじぇる芸術共創ラボ アートと翻訳による日本文学探索イニシアチブ」(NIJL Arts Initiative:Innovation through the Legacy of Japanese Literature)といいます。アーティスト・イン・レジデンス(AIR)として各分野の芸術家を、トランスレーター・イン・レジデンス(TIR)として日本語を母国語としない翻訳家を招へいし、研究者とともにワークショップを重ね、新たな文化芸術を共創するプログラムです。
ご参加にあたっての注意事項
- ・イベントの様子を収録し、編集のうえ後日当館YouTubeチャンネルから公開いたしますのでご了承ください。
- ・本イベントへの反社会的勢力の参加はお断りいたします。