アーティスト
谷原 菜摘子 (画家)

<プロフィール>
1989年埼玉県生まれ。2021年京都市立芸術大学大学院美術研究科博士(後期)課程美術専攻(絵画)修了。2015年第7回絹谷幸二賞、2015年京展・京都市美術館賞、2016年VOCA奨励賞、2018年京都市芸術新人賞、2021年京都府文化賞奨励賞などを受賞。
黒や赤のベルベットを支持体に、油彩やアクリルのほかにグリッターやスパンコール、金属粉なども駆使し、「自身の負の記憶と人間の闇を混淆した美」を描く。
2017年五島記念文化賞新人賞を受賞し、2017年秋~2018年秋の1年間、五島記念文化財団助成によりフランス・パリへ研修滞在。現在は帰国し、関西を拠点に制作活動を行なっている。
<就任期間>
2021年4月~
「アーティストおすすめの古典籍」
私はこれまで自分の制作において、「自身の負の記憶と人間の闇を混淆した美」を表現してきました。社会の暗部と相反する煌びやかさ、ユーモラスさなどが混ざり合った不可思議な作品世界を提示するよう努めています。このような自分の制作スタイルに、何か近しいものを感じ、非常に興味も持っている古典籍が以下の2つです。
①『富士の人穴草子(ふじのひとあなぞうし)』

地獄という最下層の無明の世界を描いたにもかかわらず、妙にユーモラスな造形の鬼や人物たち、そこはかとなく明るい世界観に惹かれます。残酷さとユーモラスさが無理なく同居する不思議な作品です。
②『本朝酔菩提全伝(ほんちょうすいぼだいぜんでん)』

野晒悟助(のざらしごすけ)の「善の髑髏模様」には大変驚きました。これまで私は絵画での髑髏の意味は、一般的に「死の象徴、生の儚さ」であると認識していたのですが、日本では「善や正義」といった意味合いも含まれることがあると知り、自分の作品世界にも何かしらの形で反映させたいと思います。
「ないじぇる芸術共創ラボにおいて取り組んでみたいテーマ」
ないじぇる芸術共創ラボに参加し各先生方のお話を伺っているうちに、これまで「深い意味があると考えたことがなかった要素」に注目するようになりました。その最たる例が「打出」です。打出は部屋の中に境界を作り、華やかな空間を演出すると共に、女房の存在を示すなど多岐に渡る意味や役割を持っています。時代の流れとともに打出は形骸化し絵画の中かから徐々に消えていくのですが、私なら打出をどのように作品に登場させ、どのような意味を持たせることができるか考えるのが非常に楽しいです。
私は現実ではありえない不可思議な世界を描いていますが、それは現実からの延長線上にあるものであり、決してこの世界と剥離したものではありません。そのため荒唐無稽な状況を作品内で設定しながらも、細部のモチーフに説得力と現実感を持たせることが重要であると考えています。ないじぇるのワークショップは自分の作品世界を強固にするためにも、重要な手掛かりになるように思います。
また、私はこれまで制作の前に物語を創りそれを元に作品世界を展開してきました。この任期中にも作品のための物語を新たに創り、それをもとにして制作した作品を公開できればと考えています。新しい物語を創るためにも古典籍を紐解き、自分だけでは辿り着くことができない知識に出会うことを楽しみにしています。