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毛丹青 (翻訳家)

毛丹青(翻訳家)
<プロフィール>

1962年北京生まれ。北京大学卒業後、中国社会科学院哲学研究所に入所。25歳で三重大学に留学し、後に商社勤務などを経て執筆活動を開始。2000年日本での生活体験をつづった『にっぽん虫の眼紀行』(法藏館・文春文庫)で第28回神戸っ子ブルーメール文学賞を受賞。中国語の著作も多く、日中双方の文壇で活躍している。中国語翻訳書には『歎異抄』や『出家とその弟子』など多数、2017年神戸市文化奨励賞受賞。現在、神戸国際大学教授。

<就任期間>

2021年5月~

「おすすめの古典籍」

①『増補佛像圖彙 (ぞうほぶつぞうずい)』

 『歎異抄』を中国語に翻訳し、出版したのは、いまから30年近く前のことになりますが、それ以来、親鸞をはじめ、日本仏教界の牽引する人物など、とりわけ昔の書籍に仏図としてどのように描かれていたのか、ずっと気になっています。機会があれば、現物も見てみたいと思います。

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②『親鸞聖人畧繪傳(しんらんしょうにんりゃくえでん)』

 親鸞という仏教家は、どのような顔だったのか、これもたいへん興味深いです。日本史の中に描き継がれてきた彼に関する絵柄は、どのような変化が起きたのか。独自の寺院を持たず、簡素な念仏道場を設けて教化する形を取ってきたというが、これも具体的にどう進化してきたのか、あるいは時代の影響で衰退したのか、『繪傳』からでもわかるようになれば、と期待したいです。

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「ないじぇる芸術共創ラボにおいて取り組んでみたいテーマ」

今、なぜ中国で「夢酔独言」なのか
―ないじぇる芸術共創ラボに寄せるひとりの翻訳者の思い―

 ないじぇる芸術共創ラボにおいて、『夢酔独言』の中国語訳に取り組んでいる。日本史では江戸時代の先進性が注目されるようになったのは、つい最近ではないが、持続可能な社会をどのようにして構築するべきなのかといったような議論が盛んに行われている今、世界から江戸システムに熱い視線が集まりはじめた。オンラインで日本人論に詳しい中国人学者との雑談でもこの話題で持ちきりだ。今の日本は、エネルギーや食糧のほか、木材の大半を海外からの輸入に頼らざるをえない。しかし、江戸時代は約250年間、ずっと鎖国をしていたから海外からは何も輸入しなかったのに、すべてを国内のエネルギーや資源でまかなうことができた。日本の問題としてその隘路をとっくに開いたのではないか。徳川家康は、織田信長と豊臣秀吉の治世をひたすら眺めていたからだったのか、けっきょく信長は反乱を起こされて殺され、秀吉は朝鮮侵攻という無謀なことを展開したというようなことではなく外部の世界とは一定の距離をとることにし、大陸にコミットしなかったところに「奇跡」が起きたかもしれない。

 そんな中、勝小吉著「夢酔独言」を読んでいたら、たちまちその独特な雰囲気に惹きつけられた。雰囲気とは、彼が生きていた江戸時代の暮らしぶりや一個人としての彼の生き甲斐など、ひしひしと伝えられ、決して戯言ではないことだ。圧巻の言説だ。江戸時代末期の幕臣で、明治の政治家でもある勝海舟の父親として知られていた勝小吉は、まさしく雰囲気そのもので、大きな時代の一滴の水波のようだ。逆に中国における日本文化の受容は度々話題になっている今、なぜ「夢酔独言」の中国語版は見当たらないのか、不思議で仕方がない。それなら、一役買って翻訳しようじゃないかと思いついた。これは行動へと駆り立てるようなパッションだったかもしれないが、ずっと大事にしたいと思っている。

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