Ceremony

Lecture

記念式典

国文学研究資料館 
創立50周年記念式典

日時 2022年5月13日(金) 式典の部 13時30分~14時00分
講演の部 14時15分~17時
会場 オンライン配信 YouTube 国文学研究資料館チャンネルで
ライブ配信いたします
*アーカイブ動画の公開は終了しました。
参加費 無料

式次第

式典の部 13時30分~14時00分

講演の部 14時15分~17時


基調講演

『百人一首』と『百人秀歌』をめぐって

田渕 句美子 氏(早稲田大学教授)
田渕 句美子 氏(早稲田大学教授)
講演要項
『百人一首』とその原型とされる『百人秀歌』については、多くの先行研究があるが、 成立や撰者を示す当時の資料が極めて少なく、定説は定まっていない。しかし『百人秀歌』が最初に宮内庁書陵部で発見されてから半世紀以上が経ち、 その間に伝本・注釈・文献資料・研究情報などの研究資源が蓄積されており、それはかつてなくオープンに、国文学研究資料館を始めとする研究機関等から公に提供されている。 一方で『百人一首』は、学校の国語教育で定着し、さらに種々のメディアで万華鏡のように姿を変えつつ広がり、古典文学を代表する巨大な存在となった。 こうした著名な作品に対して、半世紀の蓄積をもとに再考を加えることは、今の国文学研究でやらねばならないことの一つであろう。 『百人一首』『百人秀歌』の特質、成立、撰者について、できるだけ憶測を避けながら、鎌倉時代当時に遡及して考える。

講演1

ほんの枕を―古典籍の「もてなし」「あひしらひ」から―

小林 一彦 氏(京都産業大学教授)
小林 和彦 氏(京都産業大学教授)
講演要項
国文研に蓄積された膨大な古典籍データは、貴重な公共財として幅広く活用されています。私も長年、利用者として恩恵を蒙ってきたひとりです。さらにいえば、実は調査員として30年あまりの間、収集の起点となる調査カードをとる段階から、古典籍に接するという恩典にも恵まれてきました。夏期休暇などにグループで赴く調査は、合宿のように楽しい鍛錬の場でもありました。昼は学窓を超えて、それぞれが学んできた古典籍への接し方を共有し、夜を徹して研究分野や時代を跨いで語り合ったことなど、なつかしい思い出です。本に教えてもらったことも、たくさんあります。訪書の現場から、本との会話から、ほんの少しばかりお話しします。

講演2

第四室のころ──デジタル調査事始め

齋藤 希史 氏(東京大学教授)
齋藤 希史 氏(東京大学教授)
講演要項
私が国文研に在籍したのは、2000年4月から2002年10月まで、翌年9月までの併任期間を含めたとしても3年半という短い期間であったが、ちょうど1998年に近代文献を担当する文献資料部第四室が発足してまもなくのころであり、新しく始めたデジタル調査もようやく軌道に乗り始めたところで、国文研にとっても、私にとっても、新しい仕事が山積みで、苦労は少なくはなかったものの、多くの経験を得た時期だった。
顧みれば、当時にあって、近代文献を扱うことと、デジタル調査のシステムを作ることは、どちらもそれまでの古典籍の文献調査の枠を超えるところがあり、文献調査という営為の可能性を示すものであったように思う。現在では広く行われているデジタルヒューマニティーズとの関連も含めて、その意味について考えてみたい。

講演3

日本の古典籍によるオーロラ研究

片岡 龍峰 氏(国立極地研究所准教授)
片岡 龍峰 氏(国立極地研究所准教授)
講演要項
オーロラは高緯度地域で見られる現象ですが、日本でも稀に見られることが知られています。百年に一度、あるいは千年に一度、発生するかどうかという宇宙現象の実態を理解し、現代社会への悪影響を正しく評価することが、研究者には常に求められています。しかし、観測データが圧倒的に不足しているために、困難な研究課題とされてきました。私たちは、歴史的典籍ネットワーク事業の異分野融合研究の一環として、千年以上の蓄積のある日本の古典籍に注目し、この難題に取り組みました。文系と理系の研究者が密に協力し、日本書紀や明月記、また江戸時代に描かれたオーロラ絵図の謎に迫ることで得られた研究成果を紹介します。

講演4

歴史学的アプローチと理工学的アプローチを組み合わせた防災研究

小荒井 衛 氏(茨城大学教授)
小荒井 衛 氏(茨城大学教授)
講演要項
茨城大学地球・地域環境共創機構(GLEC)と国文学研究資料館とは、2017年5月に連携協定を締結し、2020~2023年度の4年間の計画で「歴史資料を活用した減災・気候変動適応に向けた文理融合研究の深化」という共同研究を実施している。そこでは様々な研究が実施されているが、その中で演者が学生・院生と一緒に進めてきた地震防災研究について紹介したい。その研究では、信濃川構造帯における地震災害の研究を実施してきているが、その一例として1847年善光寺地震の長野市松代町における被害を紹介する。善光寺地震の建物被害の分布を国文学資料館の真田家文書の文書や古地図から復元した。その結果を、空中写真判読による地形分類結果や常時微動計測による平均S波速度と重ね合わせることにより、地震による建物被害の酷かった松代町北東部が地形的には千曲川の氾濫平野に該当し、深度30mまでの平均S波速度が100m/sと極めて軟弱な地盤であることが分かった。

講演5

ポストコロナの交流、研究、教育と国文学研究資料館の展望

クリスティーナ・ラフィン 氏(ブリティッシュ・コロンビア大学准教授)
クリスティーナ・ラフィン 氏
講演要項
国立国文学研究資料館の創立以来、法人化を経て現在の人間文化研究機構国文学研究資料館となるまでの半世紀にわたる歴史を振り返りながら、ポストコロナという変わり目における資料館の可能性について考察したい。パンデミック中の二年の間に多くの国際交流は中止となり、オンライン授業の必要性に応じて教育の形も大きく変化した。学問としての日本文学の更なる発展を視野に入れた、ポストコロナの交流、研究、教育はどのように形成されるべきか。気候緊急事態宣言も出されているなかで、私たちの研究者として教育者としての役割と責任を考慮し、個人が機関と関わることで何かできるのかを考えたい。

講演6

研究と教育ツールとしての「日本のデジタル文学地図」

ユディット・アロカイ氏(ハイデルベルク大学 東アジア研究センター教授)
ユディット・アロカイ氏(ハイデルベルク大学 東アジア研究センター教授)
講演要項
日本文学において長い伝統を持つ歌枕・名所は、ジャンルの境界を越える空間的な秩序を形成し、関連文献を呼び起こしながら、古来のテクストやイメージを連想させる修辞的な表現である。地理的な意味よりもその場所の詩歌的、文学的、文化的なイメージを喚起し、古典文学を読む際、地名の持つイメージや意味がテクスト理解に欠かせない知識である。ここで紹介したい「日本のデジタル文学地図」プロ―ジェクトは日本文学における歌枕・名所を地図上に表示し、その背景にある歴史的、文化的、ポエティックな意味をオンラインで提供して、デジタル文学地図の研究と教育ツールとしての可能性を探る。

講演7

軍記物語の読みの変遷―『保元物語』『平治物語』を通して―

滝澤 みか 氏(青山学院大学准教授)
瀧澤 みか 氏(名古屋市立大学講師)
講演要項
「軍記物語」と呼ばれる、日本の歴史上に起きたいくさを題材とした物語のうち、現代で教科書に掲載されているのは『平家物語』であるが、戦前には『保元物語』『平治物語』といった作品もまた定番教材の一つであった。この軍記物語は、改作されながら人々に享受されてきた特徴を持つ。『保元物語』『平治物語』の場合、中世末期(一四四六~一五六〇年前後)に成立した「流布本」と呼ばれる本によって、後世、作品が読まれていくことになり、流布本の本文はそれまでの諸本よりも教訓性を強く帯びていると考えられる。しかし、近代には流布本本文の特性とは異なる読解がされていく。この本文と読みのずれの問題は近世の注釈書からも窺うことが出来、こうした変遷を捉えることは読みの流動性を考えることにも繋がっていくのではないか。

講演8

ことばの研究のこれからを考えるために―古俳諧研究の立場から―

河村 瑛子 氏(京都大学准教授)
河村 瑛子 氏(京都大学准教授)
講演要項
本文を正確に読み解くことは、国文学研究において最も基本的かつ重要な問題である。しかしながら、種々の要素が複雑に絡み合う文献資料において、その解決は必ずしも容易ではない。貞門・談林の古俳諧は、ことばの宝庫として貴重であり、古俳諧資料の基盤整備と古典研究への活用は、如上の問題に対峙するための方策として有用と思われる。国文学研究資料館によって集積・公開された情報は、かかる研究の遂行に不可欠なものであり、近時さらに重要性を増している。そこで、これまでの研究成果と国文研の事業との関わりの一端を紹介し、急速に変化する昨今の研究状況を踏まえつつ、ことばの研究の課題と展望について考えたい。