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[No. 68 トピックス]令和 7 年度(2025 年度)「古典の日」講演会

河田 翔子

令和 7年(2025)11月1日(土)、国文学研究資料館において「古典の日」講演会が開催されました。「古典の日」(11月1日)は、国民が広く古典に親しみ、文化的で活力のある社会を実現することを目的として、平成 24年(2012)に定められました。これは、寛弘 5年(1008)の 11月1日が『源氏物語』に関わる最古の記録であることによります。当館でも、毎年各分野のエキスパートの先生方を講師にお迎えし、日本古典文学に関わる様々なご講演を賜っております。

今年は、当館教授の木越俊介(きごししゅんすけ)先生と東京学芸大学名誉教授の河添房江(かわぞえふさえ)先生のお二人から、貴重なお話を伺いました。木越先生は近世文学、特に「読本(よみほん)」と呼ばれるジャンルを中心に地誌・奇談などを研究されています。河添先生は『源氏物語』の享受史や平安文学に見える「唐物(からもの)」すなわち舶来品などについて幅広く研究されています。

渡部泰明(わたなべやすあき)館長の挨拶の後、木越先生より「建部綾足(たけべあやたり)『折々草(おりおりぐさ)』の魅力」と題してご講演いただきました。本講演では一般にあまり知られていない『折々草』の面白さを伝えることが目的です。『折々草』には多様な話が記されていますが、紀行・考証・記録といった【作者自身の体験・知見】を記すものと、伝聞による奇談や巷説・小説・笑話といった【それ以外のもの】とに大きく分類されます。講演では、実際にいくつかの話を取り上げ、その本文を丁寧に読み解いていきました。たとえば、雪国における積雪の恐ろしさと、そこに生きる人々の暮らしを描いた紀行的内容の話(春の部・9)や、鶯が時鳥の巣に托卵する様子を細かく描写した奇談的内容の話(春の部・13)などです。そして、『折々草』の魅力として〈対象の幅広さ〉と〈異質なものの集合体でありつつ全体にまとまりがあること〉が挙げられ、それを支えているのが作者綾足の「丁寧な文章表現による描写」であると結論づけられました。

続いて、河添先生より「王朝文学と舶来ブランド品」という題でご講演を賜りました。はじめに「唐物(からもの)」と呼ばれる舶来ブランド品の定義を分かりやすく説明された後、今年の NHK 大河ドラマ「べらぼう」にちなんで、江戸時代の浮世絵に描かれた唐物が紹介されました。
次いで、『源氏物語』若菜上巻や『枕草子』の章段から唐猫が当時の貴族の高級ペットであったことが説明され、瑠璃・薫物・青磁・錦といった唐物が王朝文学においていずれも晴れの場で効果的に使われていることが本文に即して示されました。さらに、王朝文学に見える唐紙は、特に『源氏物語』では光源氏の魅力と権威と富を象徴するだけでなく、女君のキャラクター設定にも影響を与えていると指摘されました。唐物の中でも薫物や唐紙は、もとは中国からの舶来品であったのが、次第に日本でも作られるようになります。つまり、平安文化すなわち国風文化の時代とは「唐風文化の和様化」の時代であり、漢字や唐物などの中国由来のもの(=漢)は公的存在、仮名や大和絵などの和製のもの(=和)は私的存在として使い分けられた時代であると結論づけられました。

貴重なご講演を賜りました木越先生・河添先生、そして講演会にご参加いただきました皆様に改めて深くお礼申し上げます。

2026年10月30日まで講演動画を公開中
https://m.youtube.com/playlist?list=PLQoNnHe69dCOzw1JUbtSvSaSqH1j_EaD6