「万宝料理秘密箱 卵百珍」レシピ集

国文研が所蔵する江戸時代後期 ・天明5年(1785年)刊行の料理本『万宝料理秘密箱』中の「卵百珍」に記載された卵料理のレシピのうち、「三ツ星タマリエ」の料理研究家として活躍する料理研究家 ゆかりさんが考案し、鶏鳴新聞にも掲載された現代版レシピ(とともに翻刻テキスト)をご紹介します。
『万宝料理秘密箱』(国文学研究資料館所蔵)https://doi.org/10.20730/200021712
三ツ星たまごソムリエ 料理研究家 ゆかり
https://www.youtube.com/channel/UC7LT6gRahCIBd5AO5MUl8dQ
鶏鳴新聞 http://keimei.ne.jp/
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1.旨味濃厚!
ウニの金糸卵 -
2.海鮮風味の銀糸卵
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3.酒の肴に合うコクうま!かもじ卵
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4.純白の白髪卵!
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5.色鮮やか!
カラフル糸組卵 -
6.おもてなし!
五色卵のお吸い物 -
7.トッピングに大活躍!紅焼卵
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8.料理も映える!
爽やかな青海卵 -
9.世界に一つだけの黄身返し卵
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10.ヘルシー!
饅頭卵 -
11.三時のおやつに!絶品小倉玉子
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12.一口サイズのコロコロ小豆餅卵
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13.ふわふわ食感!定家卵
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14.プルプル食感!唐秬卵
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15.ふわふわとろける!淡雪卵
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16.しっとりジューシー中華風!
鳥煮込卵 -
17.ツルンっともっちり!
長崎ズズヘイ -
18.新感覚!
とろ~り卵の柚干卵 -
19.サクサク食感!江戸の卵煎餅
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20.さわやかお菓子!卵安留平糖
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21.やさしい甘さ ふわふわ梅仁卵・求肥卵
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22.具だくさん!
長崎卵飛龍頭 -
23.新食感!丸雪卵
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24.モチッと香ばし!麦飯卵
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25.肉厚ジューシー!松茸煎込卵
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26.モチッと食感!海苔巻卵
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27.コクのある味わい!漉粉卵善哉
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28.もっちり美味しい!芋巻卵
01旨味濃厚!ウニの金糸卵

原典の金箔を、現代の高級食材でもあるウニで代用しました。ウニは、江戸時代でも希少な高級珍味として、人々に愛されていたようです。
材料
卵白 | 2個分 |
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瓶詰めウニ | 小さじ1 |
サラダ油 | 適量 |
(トッピング) | 瓶詰めウニ |
コツ・ポイント
今回は、卵百珍の「湯煎焼き」の調理方法でつくりましたが、フライパンで焼いてもOKです。
一度こすことで、表面にできた泡を取り除くことができます。
作り方
- 卵白とウニをフードプロセッサーに入れる
※ハンドブレンダーやミキサーでも可 - 全体がよく混ざるまで攪拌する
- こし器などで卵液をこして泡を取り除く
- 四角いバットを用意し、サラダ油をぬり、クッキングシートを敷く
- クッキングシートにサラダ油をぬり、卵液を流し込む
- バットが半分浸かる程度のお湯をフライパンで沸かし、バットごと湯せんにかけ、弱火で表面が固まるまで湯せん焼きする
- フライパンから取り出し粗熱を取ったら、丸くまとめて薄く小口切りし、お皿に盛ってトッピングして完成!
翻刻テキスト
- 卵の白味をとり 半紙にて漉し
- 金箔のふり粉を すこし宛入 竹の串にて そろそろとかきまぜ
- 扨平鍋に湯を煎し 水仙鍋にて ゆせんに焼べし
- 是は 右のなべの底に 胡桃の油を引べし
- 遣ひやうは よくよく冷し巻て 小口切に うすくきるべし
02海鮮風味の銀糸卵

原典の銀箔を、ホタテで代用しました。ホタテは、当時の川柳に「小鍋立て」として食べられている様子が歌われ、主に吉原などで流行っていたそうです。
材料
卵白 | 2個分 |
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ホタテの貝柱(刺身用) | 20g |
サラダ油 | 適量 |
(トッピング) | ホタテのひも |
(トッピング) | 大葉 |
コツ・ポイント
今回も、卵百珍の「湯煎焼き」の調理方法でつくりましたが、フライパンで焼いてもOKです。
固めた卵の表面が乾かない場合は、500Wの電子レンジで20〜30秒加熱します。
作り方
- 卵白とホタテの貝柱をフードプロセッサーに入れる ※ハンドブレンダーやミキサーでも可
- 全体がよく混ざるまで攪拌する
- こし器などで卵液をこして、泡を取り除く
- 四角いバットを用意し、サラダ油をぬり、クッキングシートを敷く
- クッキングシートにサラダ油をぬり、卵液を流し込む
- バットが半分浸かる程度のお湯をフライパンで沸かし、バットごと湯せんにかけ、弱火で表面が固まるまで湯煎焼きする
- フライパンから取り出し粗熱を取ったら、丸くまとめて薄く小口切りし、お皿に盛ってトッピングして完成!
翻刻テキスト
- これも 卵の白味を 銀箔の粉を合て 右金糸卵の仕方に同じ
03酒の肴に合うコクうま!かもじ卵

原典の鍋墨を、現代でも手に入りやすいイカスミソースで代用しました。江戸時代には、イカの塩辛の黒作りが食べられていたようです。
材料
卵白 | 2個分 |
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イカスミソース | 小さじ1 |
サラダ油 | 適量 |
(トッピング) | 白髪ねぎ、大葉 |
コツ・ポイント
今回も、卵百珍の湯煎焼きの調理方法でつくりましたが、フライパンで焼いてもOKです。
作り方
- 卵白とイカスミソースをフードプロセッサーに入れる
※ハンドブレンダーやミキサーでも可 - 全体がよく混ざるまで攪拌する
- こし器などで卵液をこして泡を取り除く
- 四角いバットを用意し、サラダ油をぬりクッキングシートを敷く
- クッキングシートにサラダ油をぬり、卵液を流し込む
- バットが半分浸かる程度のお湯をフライパンで沸かし、バットごと湯せんにかけ、弱火で表面が固まるまで湯煎焼きする
- フライパンから取り出し粗熱を取ったら、丸くまとめて薄く小口切りにし、お皿に盛ってトッピングして完成!
翻刻テキスト
- 是も 卵の白味を 紙にてこし
- 鍋墨をこまかにすり ほそき絹にて漉し
- 右の白味の中へ入 とくと合せ 又絹の切にて しぼりこし 能黒みつきたるを
- 是も水仙鍋にて 湯焼にすべし
04純白の白髪卵!

純白の白髪卵。明太子を添えることで色のコントラストをつけて、白髪卵を引き立たせました。
材料
卵白 | 2個分 |
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サラダ油 | 適量 |
(トッピング) | 明太子 |
コツ・ポイント
「湯煎焼き」で火を入れることで、焦げ目のないきれいな白髪卵に仕上がります。
作り方
- 卵白をよく溶きほぐし、こし器などでこす
- 四角いバットにサラダ油をぬり、クッキングシートを敷く
- クッキングシートにサラダ油をぬり、卵白を流し込む
- バットが半分浸かる程度のお湯をフライパンで沸かし、バットごと湯せんにかけ、弱火で表面が固まるまで湯煎焼きする
- フライパンから取り出し粗熱を取ったら、丸くまとめて薄く小口切りにし、お皿に盛ってトッピングして完成!
翻刻テキスト
- 是も卵の白味を 前段のごとくに よくこし
- 右のなべにて 湯たきにすべし
05色鮮やか!カラフル糸組卵

生えんじは、家庭によくある調味料で色付けを。青菜は、ほうれん草を使うことで、野菜の素材感を楽しめます。色のコントラストをはっきりつけて、中央だけ編み込んで飾りつけました。
材料
卵白 | 4個分 |
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卵黄 | 2個分 |
水 | 小さじ1 |
ほうれん草 | 2束 |
ケチャップ | 小さじ2 |
イカスミパスタの素 | 小さじ1 |
サラダ油 | 適量 |
(付け合わせ) | 白身の焼き魚 大葉、ごま |
コツ・ポイント
卵は「湯煎焼き」で火を入れることで、焦げ目なくきれいに仕上がります。柔らかすぎて、カットしづらいときは、500Wの電子レンジで30秒ほど加熱して水分を飛ばします。
作り方
- 白色の卵は、白髪卵と同様につくる
- 赤色の卵は、卵白1個分にケチャップを加え、よく溶きほぐし、こし器などでこす
- 青色の卵は、刻んだほうれん草をコーヒーフィルターに入れ、汁を絞る。卵白1個分を加え、よく溶きほぐし、こし器などでこす
- 黄色の卵は、卵黄2個に水を加えてよく溶きほぐし、こし器などでこす
- 黒色の卵は、かもじ卵と同様につくる
- それぞれ、湯煎焼きする
- 6をフライパンから取り出し、さまして細切りにする
- 縦と横にジグザグに並べて編み込んで完成!
翻刻テキスト
- 是も 卵の白味を よく漉して
- 白味は其侭にて
- 赤は 生燕脂を入合せ
- 青は青菜を こまごまにきざみ 其生汁を入れ合せ
- 右のごとくに焼べし
- 黒きはかもじ卵のごとく 黄は卵の黄味そのまま焼べし
- 組やうは庖丁人の 心に任すべし
06おもてなし!五色卵のお吸い物

お吸い物の具材として使いました。五色卵を添えることで、シンプルなお吸い物が、華やかになります。
材料
卵白 | 4個 |
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卵黄 | 2個 |
水 | 小さじ1 |
ケチャップ | 小さじ2 |
イカスミパスタの素 | 小さじ1 |
ほうれん草 | 2束 |
サラダ油 | 適量 |
(お吸い物)しじみ | |
三つ葉 |
コツ・ポイント
卵は弱火でゆっくり焼くと、きれいに仕上がります。
作り方
- 白色の卵は、白髪卵と同様につくる
- 赤色の卵は、卵白1個分にケチャップを加え、よく溶きほぐし、こし器などでこす
- 青色の卵は、刻んだほうれん草をコーヒーフィルターに入れ、汁を絞る。卵白1個分を加え、よく溶きほぐし、こし器などでこす
- 黄色の卵は、卵黄2個に水を加えてよく溶きほぐし、こし器などでこす
- 黒色の卵は、かもじ卵と同様につくる
- フライパンに油をしき、5を流し込み、弱火で焼き、1cm幅にカット
- フライパンに油をしき、6を4本並べ、間に1〜4の卵液を流し込み、弱火で焼く
- 焼けた卵を取り出し、冷ましてからお好みの太さにカットして、お吸い物に添えて完成!
翻刻テキスト
- 是も 前段のごとくに 色を合
- これは又 取肴もの 煎冷し物には 箱入蒸にすべし
- 又卵焼のなべにても能やくもよし
07トッピングに大活躍!紅焼卵!

原典の生臙脂(しょうえんじ=中国から渡来した紅色の染料)に替えて、ケチャップで紅色に染めた紅焼卵。
ケチャップの酸味が味の決め手に!ご飯ものと相性抜群です。
材料
卵白 | 2個分 |
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ケチャップ | 大さじ1 |
サラダ油 | 適量 |
(トッピング) | 白身魚ご飯 |
(トッピング) | 青菜の漬物 |
(トッピング) | 白ごま |
コツ・ポイント
06の五色卵と同様に、弱火でゆっくり焼くと、きれいに焼くことができます。
作り方
- 卵白にケチャップを加え、よく溶きほぐし、こし器などでこす
- フライパンにサラダ油をしき、1を流し込み、弱火で焼く
- 焼けたら、好きなようにカットする
- 白身魚のご飯の上に飾り、青菜の漬物と白ごまを添えて完成!
翻刻テキスト
- 是も 玉子の白味に しやうゑんじを 温水にてよくとき合せ
- うすく焼ば湯やき 又切がさね物の類は 箱にいれ むすべし
08料理も映える!爽やかな青海卵

ほうれん草の絞り汁で爽やかな緑色に。ほんのり野菜の甘みを感じる青海卵です。お刺身と一緒に味わってください。
材料
卵白 | 2個 |
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冷凍ほうれん草(生でも可) | 30g |
サラダ油 | 適量 |
付け合わせ | 刺身 (かつおのたたき) |
大根つま、大葉 |
コツ・ポイント
弱火でじっくり焼くと良いです。ごま油で焼いてもOK!風味が変わって、おいしく食べられます。
作り方
- ほうれん草を解凍し、コーヒーフィルターに入れて絞り出す
- 卵の白身に1を加えて混ぜ、こし器などでこす
- フライパンにサラダ油をしき、2を流し込み、弱火で焼く
- 焼けたら、好きな太さにカットして、お好みの刺身を添えて完成!
翻刻テキスト
- 是も 卵のしろみに 青菜のこまごまの汁をとり
- 右の白味に 合すべし
09世界に一つだけの黄身返し卵

卵百珍の黄身返し卵は、京都女子大学の八田一教授が再現に成功したもので、今回の無精卵と身近な道具を使った方法も、八田先生が考案されました。先生によると、賞味期限が来て卵黄膜強度が弱くなった卵を使い、回転も前後を交互にすると卵黄膜が破れやすいそうです。一度たりとも同じ模様にならないところが、面白い魅力でもある黄身返し卵です。
材料
卵 | 1個 |
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準備するもの | ・ストッキング1本 |
・ワイヤータイ または輪ゴム |
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・ラップ | |
・懐中電灯または 携帯電話のライト |
コツ・ポイント
今回は卵白がくっきり残るよう、濃厚卵白が多い新鮮な卵を使いました。高速回転時に卵から「ピチャッ」という音が聞こえたら反転した合図!ゆでる時は、殻にヒビが入らないように、そっとゆでましょう。
作り方
- ストッキングを半分に切り、真ん中あたりを結ぶ
- 卵をラップで包む(ヒビ卵は使わないこと!)
- 卵を縦にしてストッキングの結び目まで入れ、ストッキングの中で動かないように、反対側をワイヤータイなどで止める
- 暗い所で卵に光を当て、状態を観察しておく(この段階では、卵全体が明るく見え、黄身が動いていることを確認できる状態)
- ストッキングの両端を持ち、ぐるぐる回転させて、ねじれをつくる
- 両手を広げて一気に引っ張り、ぶんぶんゴマのように高速回転させる
- 6を5回ほど繰り返したら、暗いところで卵に光を当て、状態を確認する。卵全体が暗くなっていたらOK
- 水を張った鍋に卵を入れ、火にかけてから2分たったら、沸騰するまで箸で転がしながらゆでる
- 沸騰したら弱火にして、10分間ゆでる
- 火を止めて卵を取り出し、約5分間氷水で冷やす
- 殻をむいて完成!
翻刻テキスト
- 地たまごの 新しきを 針にて頭(かしら)の方へ すこしばかり穴をあけ
- 扨能(さてよく)糠味噌へ 三日ほど漬おきて
- 取いだしよく水にて洗ひ
- 煎貫(にぬき)にすれば 中の黄味が 外へなり 白味が 中へ入る 是を黄味返しといふ