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[No. 68 トピックス]原発事故後の立場を超えて「浪江を語ろう!」

国文学研究資料館基幹事業センター委員会委員、 歌人  三原 由起子

原発事故後の立場を超えて「浪江を語ろう!」

4年前の2021年1月に二本松市で開催された福島県立博物館主催のオープンディスカッション「浪江の記憶の残し方・伝え方」に登壇し、国文学研究資料館の西村慎太郎さんとご一緒したことが、「浪江を語ろう!」を始める大きなきっかけとなった。「私の生まれ育った浪江町の歴史や文化を学び、みんなで話し合う機会を設けたい、そして残していきたい」という気持ちが確かなものになったからだ。

東京電力福島第一原発事故前は、当たり前に平穏なふるさとが続いていくのだと思っていたので、浪江町の歴史や文化は誰かが残してくれるだろうという他人任せの気持ちがあった。そんな自分を原発事故後は悔やんだ時期もあったが、悔やんでも時間は戻せないので、今の自分にできることに取り組んでいくしかない。

そんな中で、原発事故により、同じ町内でもさまざまな立場の違いから話しにくくなっている現在の空気を感じた私は、「浪江の歴史や思い出話なら立場を超えて話せるかもしれない」と思い立ち、西村さんと共に参加型イベント「浪江を語ろう!」を企画することになった。

第1回目は2022年4月に、浪江町役場に隣接する「まち・なみ・まるしぇ」のイベントの一環で開催した。青空の下、多くの方々が集い、浪江町の歴史や思い出話を共有したことは記憶に新しい。

この会では、浪江町の方々に登場していただき、参加者と双方向で話し合うことをモットーにしている。西村さんによる基調講演も好評だ。テーマは浪江町の川や水路、古文書、学校や遺跡、森林、寺や移民、各地域の歴史と文化など多岐にわたり、毎回さまざまな角度から記憶と記録を呼び起こす。「継続は力なり」というように、回を重ねるごとに参加人数も増えて、会場の規模も徐々に大きくなっていった。また、毎回、西村さんが自身のYouTube チャンネルでライブ配信し、後に編集版もアップするなど、世界中から視聴できるようにしてくださっているのも大変ありがたい。

さて、今回は「第14回浪江を語ろう!」について特筆したい。テーマは「樋渡(ひわたし)・牛渡(うしわた)の歴史と文化」で、西村さんが「樋渡・牛渡の伝承と修験」について、浪江町牛渡地区出身の行政書士でシンガーソングライターでもある矢野雅哉さんが「樋渡・牛渡の八坂神社と伝統芸能の継承」について話をした。矢野さんは42歳にして、今年から樋渡・牛渡地区の田植踊り保存会会長に就任したばかりだ。2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故により、一度は途絶えてしまったこの地区の田植踊りと盆踊りを復活させた一人でもある。

原発事故後は、今までの住民だけではなく、移住してきた方々と共に活動するようになった。また、避難により住んでいる地域がバラバラになってしまっているため、会のメンバーとはグループLINE を作り、コミュニケーションを取るように心がけているそうだ。矢野さんが復活させる際の苦悩や工夫を話すと、共感や学びを得たように、会場では大きく頷く方々が多く見られた。

また、各地区で行われている田植踊りの違いなども話し、会場の参加者にもいろいろな意見を伺いたいという姿勢を見せると、会場からは「浪江町の津島地区には4つの田植踊りがあり、歌詞や踊りが微妙に違う。基本は男性だけだった。現在続いているのは、津島地区では南津島の田植踊りだけ。花嫁衣裳や羽織を身に着ける南津島と比べると、樋渡・牛渡の衣装が軽装であることに驚いた」、「双葉町から南では田植踊りは聞いたことがない」、「うちの地区には宝財(ほうさい)踊りがある」など、それぞれの地域から参加している方々が、自らの経験談や知識を共有し、大いに盛り上がった。まさにこの瞬間が、この会の醍醐味であると、私は胸が熱くなる。

12月20日には第15回を迎えた。西村さんのYouTube チャンネルで配信されているので、ぜひご覧いただき、その雰囲気を感じて欲しい。次回は3月14日に開催されるので、できればぜひ、現地の浪江町で参加されることをおすすめしたい。