国文研ニューズ web

[No. 67 トピックス](ないじぇるトークイベント&ワークショップ )源氏とあそぶ。源氏をまとう。

立正大学専任講師 黄(こう) 昱(いく)

国文学研究資料館では、「ないじぇる芸術共創ラボ アートと翻訳による日本文学探索イニシアティブ」事業を通じて、さまざまな分野で活躍するクリエイターをアーティスト・イン・レジデンス(AIR)とトランスレーター・イン・レジデンス(TIR)として招き、研究者とともに古典籍を紐解き、新たな文化・芸術的価値を創出しています。

2025年1月31日に、たましん美術館との共催展示「源氏物語の新世界ー明け暮れ書き読みいとなみおはすー」の関連イベントとして、現在 AIR で活動中の芦川瑞季(あしかわ みずき)氏(版画家)と成瀬拓己(なるせ たくみ)氏(画家)、さらに元 AIR の染谷聡(そめや さとし)氏(美術家/漆芸)によるトークイベントとワークショップを開催しました。

前半のトークイベントでは、まず3名の AIR が ないじぇるにおける自身の活動を紹介し、研究者と古典籍との「共創」にインスパイアされた作品とその創作過程を参加者の皆さんと共有しました。

「遊びの思考」というテーマに関心を抱き、ないじぇるに参加した染谷氏は、東海道五十三次の景色を鉢の中に作った「鉢山(はちやま)」を描く江戸時代の絵本『鉢山図絵(はちやまずえ)』との出会いを契機に五十三次の地を巡り、風景を「縮景」して飾る作品シリーズ「みしき」の新たな展開について紹介しました。

芦川氏は、研究者とのワークショップをきっかけに『源氏物語』を読み直し、登場人物の感情や表情を表に出さず、植物や周囲の人物の描写を通じて内面を描くという表現手法に注目しました。
この特徴が、現代の SNS文化に見られる、相手の感情が見えにくいコミュニケーションの在り方と共通することに着想を得て、「押えこまれた感情」というテーマで現代社会と『源氏物語』の関係性を探る作品≪私が私を笑うとき≫を創作したことについて語りました。

成瀬氏は、『源氏物語』の絵画化作品において同一の場面が同様の構図で繰り返し描かれるという特徴に着目した、『源氏物語』の「形」を現代の芸術表現に置き換える CG 作品の制作について解説しました。
例えば、『をさなげんじ』の若菜上の挿絵と、歌川豊国(うたがわとよくに)の錦絵「源氏絵物語」の構図と色彩を取り入れた≪若菜上≫や、源氏香にインスピレーションを受け、『源氏つまこゑ』『源氏かるた』など古典籍の文字を記号として使い、『源氏物語』五十四帖のイメージに基づいて54個の香水瓶を制作した≪源氏香によるストラクション≫など、古典が現代アートにおける無限の可能性を提示する作品が紹介され、参加者を驚嘆させました。

イベントの後半では染谷氏を講師に迎え、古典籍の画像を印刷したシートを自由に切り貼りして独自のデザインを作成し、それを漆でコーティングして仕上げる、オリジナル封筒制作の体験型ワークショップを行いました。
アフタートークで染谷氏は、参加者が制作した封筒をコピーし、「オリジナル源氏物語封筒」として使い続けていくことを提案しました。これは、古典を単なる鑑賞・保存の対象として捉えるのではなく、日常生活の中に積極的に取り入れ、活用していくという、新たな継承のあり方を提示する試みといえます。

今回のイベントは、古典文化が現代社会における多様な可能性を孕んでいることを示し、それを多角的な視点から共有・体験する貴重な機会となったと思います。