村上 義明(熊本学園大学准教授)
祐徳稲荷神社本殿(筆者撮影)はじめに
2022年度より3か年にわたって、祐徳稲荷神社(佐賀県鹿島市)にて行われた共同研究「中川文庫(祐徳稲荷神社)の総合的研究」の主たる目的は、これまで長きにわたり調査が続けられてきた中川文庫の全体像を把握しうる目録の作成と、当該文庫の特徴や、そこに蔵される興味深い資料などを地域の方々へ向けて解説する「中川文庫セミナー」の開催であった。
中川文庫の目録
本研究では、中川文庫の資料を①歴史史料、②近代書籍、③漢籍、④国書(近世)の4つに分類し、それぞれの目録の作成を目指した。
①は高橋研一氏により「中川文庫(祐徳稲荷神社蔵)総合目録 歴史史料編」(国文学研究資料館学術資料事業部『調査研究報告』第44 号、2024 年3月)として公表された。ここには日記編・近世文書編・近代文書編に分けられた1182点の史料が掲載されている。
また②は井上洋子氏と高橋研一氏により「中川文庫(祐徳稲荷神社蔵)総合目録 近代書籍編」(国文学研究資料館学術資料部『調査研究報告』第45号、2025年3月)としてまとめられ、単行本・逐次刊行物・洋書の大分類のもと2123点の書誌が紹介された。
そして③と④は近年中に完成予定である。
中川文庫セミナー
本研究では中川文庫セミナーを5回開催した。各会とも祐徳稲荷神社参集殿において2名が登壇した。書誌学・近世史・近代史・注釈・地誌・戯作・謡曲・歌学に関する幅広い内容を地域の方々へお伝えすることができた。以下に各回の講師と演題を挙げる。
〈第1回〉2022年10月23日
入口敦志「蔵書のはじまり―古活字版の時代―」
高橋研一「鹿島藩主夫人篤誠院とその書物」
〈第2回〉2023年5月13日
川平敏文「徒然草はどう読まれたか―中川文庫蔵『徒然草直談抄』を中心に―」
井上敏幸「名著『鹿島小志』」
〈第3回〉2023年7月22日
吉田 宰「異国あれこれ―『風流志道軒伝』『襍土一覧』を例として―」
進藤康子「鹿島藩第六代鍋島直郷の文事を支えた人々 永井文安(洵美)の事跡を中心に
〈第4回〉2023年12月2日
村上義明「松浦佐用姫の謡曲を読む」
中山成一「武富廉斎と『異説百人一首五箇秘』」
〈第5回〉2024年7月28日
山田洋嗣「「万古後拾新」の意味―抄出と手控え―」
井上洋子「中川文庫と沖縄―『沖縄対話』の役割を振り返る」
そして、当該セミナーのまとめとして、2025年3月9日に中川文庫シンポジウム「中川文庫の過去・現在・未来」を開催した。パネリストは、井上敏幸氏・高橋研一氏・入口敦志氏の3名であった。
中川文庫の過去について話された井上氏は、目録は文庫の顔であり、また地域の特色であること、それから文庫を広く世界に知ってもらうことの必要性を説かれた。
次に当該文庫の現在について高橋氏は、学問の分野が細分化していくなかにあって、文庫の全体像を把握することができる目録の意義について言及された。
最後に入口氏は、これからの文庫の活用例の一つとして、国文学研究資料館が推進する「文献観光資源学」に触れつつ、地方の文献や資料を資源として活かすことの期待について述べられた。
おわりに
近年中に完成が予定される漢籍編と国書(近世)編を含めた4つの総合目録により、その膨大かつ貴重な資料を有する文庫の全体像を把握することが可能となり、これを用いた研究のさらなる発展が期待される。
また中川文庫セミナーと中川文庫シンポジウムを通して、当該文庫はもちろん、そこに蔵される資料に対する地域の方々の理解に貢献できたと考えられる。今回の研究成果が学界のみならず、地方創生の一助となれば幸いである。
