【解題】
当館請求番号:ヨ3-23
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十二支とそれ以外の動物たちとの歌合を発端にした争いを描いた異類物お伽草子。「十二類絵巻」。当館所蔵は上巻のみ、江戸末期の作とみられる模写である。本作の伝本は大きく2つに大別され、室町中期頃に制作されたと考えられる絵巻形式のものと、挿絵・画中詞を簡略化し物語化したものである。当館所蔵は前者にあたる。
内容は、十二支が集まり、十五夜の月を題に歌合を開くことになる。「歌仙」を名にもつ鹿が狸をお供に現れ、判者を申し出る。歌合後の宴会も盛り上がり、大成功に終わる。
後日、十二支はまた歌合を計画し、再度鹿に判者を頼もうとするが、鹿は断る。歓待される鹿を羨ましく思っていた狸は、鹿の代わりに判者を申し出るが、十二支は怒り追い払う。
この対応を恨んだ狸は、十二支に属さない動物(狐、烏、ふくろう、猫、狼など)を集め、十二支との戦を企てる(ここまでが上巻)。ところが、狸側の動きを掴んだ十二支側から先制攻撃を受け、狸側は敗戦。逃走した狸は、鳶の言葉で夜襲を仕掛け、一度は勝利するものの、態勢を立て直した十二支軍との激しい合戦の後、最終的に狸軍は壊滅させられる。
敗れた狸は、最後に鬼に化けて十二支に反撃しようとするが、犬に見破られてしまう。狸は復讐を諦め、出家する。
本作は、十二支とそれ以外の動物たちとの対立、という物語設定も、各々の動物らしさを残しながらのキャラクター設定も、非常に良く考えられており、完成度の高い作といえる。和歌や画中詞も深い知識に基づいており、室町期の学芸享受を考える上でも見逃せない作。
さて、今年の干支は、鼠。歌合では「よもすから秋のみそらをなかむれは 月のねすみと身はなりぬへし」という歌を詠んでいる。「月のねずみ」とは、『賓頭盧(びんずる)説法経』にある説話で、月日の過ぎゆくことを指す。思慮深い僧侶として描かれることも併せ、鼠の頭の良いイメージを生かしているといえよう。(宮本祐規子)