神話・歴史、地誌・伝承、歴史物語・史論、軍記

上代

神話・歴史

『古事記』は、和銅5年(712)成立。稗田阿礼が伝承していた古代の歴史を、太安万侶が筆録編集したもので、神代から推古天皇(在位593~629)までを収めています。『日本書紀』は、養老4年(720)成立。舎人親王撰。日本最古の官撰の史書で、神代から持統天皇(在位687~697)までを収めています。両書とも、神話・伝承や歌謡・和歌を多く含み、古代の日本人の感性と思想を知る上で重要な作品です。

地誌・伝承

『風土記』は、和銅6年(713)に元明天皇が諸国に撰進を命じた地誌で、常陸・播磨・出雲・豊後・肥前の五箇国のものが現存します。各国の地理や物産のほか、地名などに関わる伝承を記録しています。『古語拾遺』は、斎部広成が大同2年(807)に撰進したもので、『古事記』『日本書紀』を補う古代伝承の資料として注目されます(成立は平安時代初期ですが、便宜上ここに配列します)。

平安時代中期~後期

歴史物語

歴史物語は、物語の形式・文体で歴史を叙述するもので、宇多天皇(在位887~897)から堀河天皇の寛治6年(1092)まで(正編は後一条天皇の万4年(1027)まで)を扱った『栄花物語』が、最初の作品と考えられます。ついで文徳天皇の嘉祥3年(850)から後一条天皇の万寿2年(1025)までを扱った『大鏡【おおかがみ】』が書かれ、独自の批判的視点に特色を示しています(『大鏡』については、院政期の成立と考える説もあります)。

軍記

戦乱を題材にした文学である軍記も、この時期に現れました。関東の平将門の承平・天慶の乱(935~940)を扱った『将門記』、奥州の安部氏討伐の前九年の役(1051~62)を扱った『陸奥話記』があり、合戦とそれが起こるに至った経緯を叙述しています。

院政期

物語・歴史物語

院政期は、物語文学が衰退に向かった時期ですが、なおいくつかの作品が作られました。女装の男君と男装の女君の兄妹を主人公とする異色作『とりかへばや物語』や、『在明の別』などが伝わっています。また歴史物語として、『大鏡』の後を嗣ぎ、後一条天皇の万寿2年(1025)から高倉天皇の嘉応2年までを収めた『今鏡』が書かれました。作者は藤原為経(寂超)とする説が有力です。

鎌倉・南北朝時代

軍記物語

戦乱のたびに語り伝えられた英雄伝などが記録され、軍記物語が誕生します。鎌倉初期の『保元物語』『平治物語』は、和漢混交文で生き生きと武将たちの活躍を描きます。続く『平家物語』は平氏の興亡を語る軍記物語の一大巨編で、多くの語り手や読者の手を経て、改訂・増補が繰り返されました。南北朝の内乱を中心とする『太平記』は政治や社会への鋭い批判がうかがえます。

歴史物語・史論

平安時代の『大鏡』『今鏡』のあとを受けて、鎌倉初期に『水鏡』、南北朝期には『増鏡』が書かれました。京都の宮廷生活を描いた『増鏡』には、作者の王朝社会への憧れがうかがえます。また、相次ぐ戦乱を反映して、歴史の背後にある原理を解き明かそうとする史論も登場します。北畠親房による『神皇正統記』は、神道を基本に南朝の正当性を強く主張しています。

室町・安土桃山時代

軍記物語

源義経の悲劇的な生涯を描いた『義経記』や、曾我兄弟の仇討ちを物語る『曾我物語』など、合戦の群像ではなく、個人の運命を描いた物語が作られます。悲劇の運命をたどった者への共感と鎮魂の思いの込められた「語り」を通して、人々に享受されました。「判官物」「曾我物」として、物語だけでなく芸能や絵画などにも展開し、後世まで長く語り継がれていきました。