今月の一冊
2003/6

役者見立 東海道五十三駅
〈やくしゃみたて とうかいどうごじゅうさんつぎ〉

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【 解題 】
[請求番号 ラ3・24]
一陽斎豊国〈いちようさいとよくに〉(三代目歌川豊国)画。
嘉永5年(1852)以降成。
一帖。36・0×25・0センチ。

非売品の目録と様々の版元から売り出された大判錦絵〈おおばんにしきえ〉62枚を、画帖形態に貼ったもの。
五十三次の地名にちなんだ歌舞伎の登場人物が、当時の役者似顔で描かれ、背景は保永堂〈ほうえいどう〉版『東海道五拾三次』(広重画)を利用している。購買者は地名と人物の見立〈みたて〉を解いて楽しみ、贔屓の役者の舞台を思い出したものと思われる。

例えば「藤沢」は遊行寺に祀られる「小栗判官〈おぐりはんがん〉」で、小栗は数多くの演劇に取り上げられたが、幕末の嘉永4年4月江戸中村座上演の「世界花小栗外伝〈せかいのはなおぐりがいでん〉」では、小栗判官兼氏を二枚目花形役者の坂東竹三郎〈ばんどうたけさぶろう〉(五代目坂東彦三郎)が演じた。衣裳は竹三郎の替え紋である八重酢漿草〈やえかたばみ〉を白抜きにし、牡丹〈ぼたん〉等が笹蔓〈ささづる〉風に配された文様で、竹三郎にちなむ文様か。竹三郎(五代目彦三郎)は明治期の団菊にも一目置かれ、特に五代目尾上菊五郎〈おのえきくごろう〉によって役の継承がなされた。
外題の短冊枠に描かれる鞍〈くら〉や轡〈くつわ〉や鐙〈あぶみ〉は、小栗判官が乗りこなした荒馬「鬼鹿毛〈おにかげ〉」にちなむ。「平塚」は、小栗判官に想いを寄せる「萬長〈まんちょう〉娘おこま」で、同歌舞伎ではその役を、美貌で有名な三代目岩井粂三郎〈いわいくめさぶろう〉(八代目岩井半四郎)が演じた。萬長館は美濃青墓だが、小栗にちなむ藤沢と対で描かれている。朱塗櫛〈しゅぬりくし〉と簪〈かんざし〉には、丁字車〈ちょうじぐるま〉、衣裳には白抜きで杜若〈かきつばた〉(粂三郎の俳名の一つが杜若)、どちらも粂三郎にちなむ様。どちらも嘉永5年3月の改印、伊勢屋兼吉板、彫師横川竹二郎、摺師大海屋久五郎。

掲出本には、「役者見立東海道五十三駅」の揃い物51図(4図欠)、続編11図が所収される。
「役者東海道」は嘉永5年から売り出された揃い物大判錦絵であるが、非常に好評だったため、正編、続編、間の宿〈あいのしゅく〉シリーズ等多く存在する。国立劇場の『芝居版画等図録VIII』に正編28図、続編14図が載るが、掲出本によって、「役者東海道」正編の実態が、ほぼ把握される。


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