催し物

特設コーナー

通常展示の一部のスペースを使って、当館所蔵の作品を展示いたします。

カタカナ本とひらがな本
会期:平成28年9月15日(木)〜10月25日(火)
休室日:日曜日・祝日、展示室整備日
※平成28年度からは土曜日も開室しています。

特設コーナーの様子

 私たち日本人は日頃ほとんど意識していませんが、日本語という言語は三種類の文字を自在に用いて表現する、世界に例を見ない特殊な言語なのです。三つの文字とはいうまでもなく、漢字、カタカナ、ひらがなです。
 現在、カタカナは外来語や「ガタガタ」・「スルスル」などの擬音語・擬態語にもっぱら使用しますが、昔は違いました。三種類の文字には身分があったのです。
 まず漢字、次が漢文訓読など学問で使用するカタカナ、そしてひらがなは漢字を読めない女性や子供(昔の言葉では「婦女童蒙[ふじょどうもう]」)のための文字でした。
 したがって、同じ仮名でもカタカナの本とひらがなの本との間には厳然たる区別があったことを、近世文学者の中村幸彦[なかむらゆきひこ]は指摘しています。軍記や歴史関係の堅い書物はカタカナ、日本固有の和歌や物語、そして娯楽的な本はひらがなで、という区別です。
 しかし、江戸時代、出版が盛んになり、読書人口が増えてくると、事情が変わってきます。本来、カタカナで出版されていた軍記や宗教の本も、より多くの読者や信者のためにひらがな本で出版されるようになります。けれども、カタカナ本がなくなったわけではありません。たとえば、『平家物語』の場合、江戸初期の古活字版で、すでにカタカナ本とひらがな本が並行して出版されているのです。
 今回の展示では、同じ作品がカタカナ本とひらがな本の両方で出版された書物を取り上げ、対比して並べてみました。
 さらに、ひらがな本の特色は、時代が下がるにつれ、もとはカタカナで出版された堅い本の理解を助けるために、挿絵[さしえ]が添えられることです。
 江戸時代の出版で特筆すべき事の一つは、絵本、絵入り本の多さです。しかし、絵のある本は原則としてひらがな本であるということは、あまりにも当たり前のことだからか、そのことが注意されることはありませんでした。カタカナ本にもいくらかの例外はあるものの、絵入り本は原則としてありません。
 これは、挿絵というものが「婦女童蒙」の理解を助けるための手立てとして考えられていたからです。
 私たちが日々無意識に使っているカタカナとひらがなには、このような違いがありました。この違いは、近代になっても、男性はカタカナで日記を書き、女性はひらがなで、という形で残っていました。一例を挙げれば、夫婦の日記を交互に示すという形で展開する谷崎潤一郎[たにざきじゅんいちろう]の晩年の小説『鍵』に、その証をはっきりと見ることが出来ます。

明治以前の書物では片仮名まじりで書いた本と平仮名まじりで書いた書物とは、厳然とした区別があるのです。元来日本でできたというより元来日本的な書物―たとえば和歌の本とか物語といったものは平仮名まじりですが、元来外国的なものー漢籍とか仏書とかに関するものは片仮名で書く習慣がありました。(中略)歴史というもの、これは日本では中国に学んで著述された「六国史」に見る如く漢文で書くのがあたりまえとされました。するとその後々も歴史書の流れのものはたとえ仮名まじりで書く時は、片仮名を使用する。『太平記』も古い本は全部片仮名まじりです。仏書でも、たとえそれが一般の人に話をするお説教でも、事仏教に関する場合は全部片仮名まじりです。このように画然と分かれておったのです。
                    (「通俗物雑談―近世翻訳小説についてー」、『中村幸彦著述集』第7巻)


 そもそも「仮名」というのは、古代日本人が正統な文字漢字のことを、「真の文字」すなわち「真字[まな]」と呼んだ、それに対する語、すなわち「かりそめの文字」という意味です。
 しかし、子供の時から三つの文字に慣れ親しんできた多くの日本人は、それを不思議に思ってはいません。
 中国から入ってきた漢語や抽象的な概念をあらわす言葉は漢字で書き、日本固有の大和言葉や助詞、助動詞などはひらがなで、外来語や「ガタガタ」・「スルスル」などの擬音語・擬態語はカタカナで書く、という書き分けが現代日本語の標準です。
 しかし、三種類の文字を使いながらも、近代以前は、その三つの文字のもつ役割は今日とはまったく異なっていました。
 漢字は学問の本家中国の文字で、それこそが本物の文字であるという意味で、古代日本人は漢字のことを「真字」とよんでいました。
 それに対して、漢字だけでは日本語を表現できないので、漢字の一部(カタカナ)や漢字の崩した形(ひらがな)を日本語の音を表す文字として使用するようになります。それが「かな(仮字)」です。今日では「仮名」と書きますが、「仮」という字が示しているように、それは「真」の文字漢字に対して、仮そめの文字という卑下した意味をもつ言葉なのです。
 つまり、漢字と仮名との違いは、たんに文字のかたちの違いではなく、文字の身分の違いだったのです。



展示ケース1                                展示ケース2
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ケースA

展示ケース3                                 展示ケース4
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問い合わせ先: 国文学研究資料館企画広報係
TEL.050−5533−2910 FAX.042−526−8604 
E-mail:

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